おでんおんせん
台所でおいしそうな匂いがするので、とこちゃんがいってみると、鍋で出汁が煮たって、おでんの材料がおいてあります。おでんだねたちが寒がっているので、とこちゃんは鍋に入れてやり、こしょうをふりかけたら、おでんだねはくしゃみをして、鍋からとびだすと外に逃げだしました。山の中で温かい温泉を求めてさすらうおでんだねたち、追いかけるとこちゃん……。奇想天外な絵本です。
福音館書店
こどものとも通巻203号
作者名:山田ゆみ子
出版社名:福音館書店
こんにちは、旅する絵本マニアです!
「絵本巡礼の旅」と称して日本各地の古本屋をめぐるのが趣味です。
今日も素敵な絵本を紹介したいと思います。
とこちゃんちの台所を拝見
絵本の最初のページには、とこちゃんの家の台所の絵が描かれています。
それをよーく観察してみると…
とこちゃんのお母さんはちゃんと昆布とカツオから出汁をとっているのが伺えます。
そしておでんの具材は
大根、はんぺん、蛸の足、こんにゃく、おいも、さつま揚げ、ちくわ、昆布、がんもどき…
とこちゃんのお母さん、頑張りましたね。
あと、すじ肉と煮卵があれば、最高!!
他にも台所を見てみると、子ども用のエプロンや踏み台まで用意してあるんです。
とこちゃんがいつでもお料理の様子を見たり、参加している気持ちになれるように工夫されているところが、とても素敵だなと思いました。
とこちゃんのセンス
おでんの味は調味料で大きく左右されますよね。
とこちゃんも親切心で味付けをしようと頑張っているのですが、
胡椒味、ケチャップ味、カレー味…
百歩譲って唐辛子味はアリとしてもその量が半端ない!!
思わず「なんでやねーん!」とツッコミを入れたくなるような調味料のチョイスに思わず笑ってしまいます。
おでんたちに待ち受ける受難
下ごしらえも終わり、あとは温かいおでんのなべに入るだけなのに、寒い台所でお預けになってしまったおでんたち。
早くおなべに入ってあたたまりたいのに、とこちゃんの度重なるありがた迷惑のせいでなかなかあたたまることができません。
特に切なかったシーンがあります。
とこちゃんにカレー粉をかけられて、おでんたちは頭にカレー粉を山盛り乗せたまま吹雪の中を逃げるのですが、その山盛りのカレー粉を乗せた頭の上にさらに雪が積もっているんです…
頭の上にカレー粉と雪がてんこ盛りの状態で、悲壮感漂う表情でひたすら吹雪の中をさすらうおでんたち。
笑っちゃいけないけれど、プププ…
さらに切なかったのは、すぐ近くには「ゆきみおんせん」という温泉があるにも関わらず、なぜスルーして入りに行かなかったのかということ。
吹雪が激しくて気がつかなかったのか…
いや、「ゆきみおんせん」には動物たちが入りにきているので、すぐに食べられてしまうことをおでんたちは分かっていたのかもしれません…
すぐそこに温かい温泉があるのに、吹雪の中入れないなんて…
うーん、切なすぎる!!
まさにおでんたちの受難です。
温泉のセンスが光る、そして意外なキャストが登場していた!?
ななかまどおんせんの「ナナカマド」という植物を私はあまり知りませんでした。
漢字で書くと「七竈」と書くそうです。
「ナナカマドの木材は燃えにくく、七度竈(かまど)にくべても燃え残る」
「七日間、竈(かまど)で焼いて木炭を作る」という由来があるようです。
また、燃えにくいことから火災除け、落雷除けのご利益があるとして神社でも植えられることもあるそうです。
ナナカマドの実は赤く熟して、葉もまさに絵本の絵の通り、真っ赤に色づきます。
モミジなどのポピュラーな紅葉にせずに、あえて「ナナカマド」を選ばれているところが素敵だなと思いました。
くぬぎおんせんには入口に「かんげい・おでんごいっこうさま」と立札まで掲げてあり、歓迎ムード!
バリ風な雰囲気のおしゃれな温泉で、冬なのにカエルも出てきてまさに南国リゾート気分のようです。
クヌギの実はドングリなので、リスがドングリを抱えている姿も描かれていました。
イチョウなどのポピュラーな黄色い紅葉にせず、あえて「くぬぎ」を選ばれているところも、ナナカマドに引き続きセンスを感じました。
ごくらくがまは火山の温泉なのですが、そのごくらくがまの近くには、なんと「雷鳥(らいちょう)」が描かれていたんです。
雷鳥ってご存知ですか?
雷鳥は国の特別天然記念物に指定されている希少な鳥で、現在、日本では長野県や新潟県の高山地帯(飛騨山脈・赤石山脈・火打山・焼山・乗鞍岳・御嶽山)に生息しているそうです。
(ちなみにJR大阪駅 – 金沢駅・和倉温泉駅を走る急行特急「サンダーバード」という電車がありますが、その「サンダーバード」は「雷鳥」という意味です)
そんななかなか出会うことができない貴重な鳥が、この絵本の火山に描かれているなんて!
火山の近くの雷鳥がいる、何とも素晴らしい光景だなと感動しました。
こんな景色をこれからの未来の子どもたちにも残していきたいですね。
まとめ
いろんな調味料で温泉の色が変わるところがおもしろかったです。
他にもどんな味の温泉ができるかな?とか、季節を彩る木々や植物を見ては「これは〇〇温泉になりそう」と想像を膨らませたり、空想の世界が広がりそうです。
おでんを食べるたびに思い出す絵本になりそうです。